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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)7657号 判決 1972年11月01日

原告 篠崎定雄

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 小野寺賢隆

被告 篠崎香料株式会社

右代表者代表取締役 篠崎弘

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 森井喜代松

右同 森井一郎

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

(請求の趣旨)

一  被告篠崎香料株式会社は、原告篠崎定雄に対し、五、五〇〇万円、原告篠崎秀雄に対し、四、九五〇万円およびこれに対するそれぞれ昭和四六年九月一〇日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を、被告篠崎産業株式会社は、原告篠崎定雄に対し三、〇〇〇万円、原告篠崎秀雄に対し二、七〇〇万円およびこれに対するそれぞれ昭和四六年九月一〇日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

(請求の趣旨に対する答弁)

主文と同旨

(請求原因)

一  被告篠崎香料株式会社(以下被告篠崎香料という)は、昭和二五年二月二七日、被告篠崎産業株式会社(以下被告篠崎産業という)は、昭和三五年八月二九日設立された会社であり、いずれも原告らの父母兄弟らを株主とし、役員とするいわゆる同族会社である。

二  原告らは、いずれも被告両社の設立以来昭和四六年八月二日任期満了で退職するまで、被告篠崎香料においては一一期二一年六月間、被告篠崎産業においては六期一一年間にわたり、それぞれその取締役であり、企業の中心的存在として、その発展に大いに寄与してきた。

三  被告篠崎香料の資産は約二億円余りであり、被告篠崎産業の資産は約一億六、〇〇〇万円余であるが、原告篠崎定雄は、被告篠崎香料から月額二〇万円、被告篠崎産業から月額一一万円の報酬と各二月分の賞与を受け、昭和四五年一年間における収入は四三四万円であり、原告篠崎秀雄は、被告篠崎香料から月額一八万円、被告篠崎産業から月額一〇万五、〇〇〇円の報酬と各二月分の賞与を受け、昭和四五年一年間における収入は三九九万円であった。

四  被告両社には取締役の退職慰労金について定款の定めはなく、原告両名の退職に際し、退職慰労金を支給する旨の株主総会の決議もなされていないが、取締役の退職慰労金は取締役在職中の職務執行についての対価であって、退職取締役にこれを支給すべきことは取締役任用契約の有償性からして当然のことであり、また慣行でもある。

五  よって、原告定雄は、取締役在任期間一期五〇〇万円として、被告篠崎香料に対しては一一期分五、五〇〇万円、被告篠崎産業に対しては六期分三、〇〇〇万円、原告秀雄は、一期四五〇万円として、被告篠崎香料に対しては一一期分四、九五〇万円、被告篠崎産業に対しては六期分二、七〇〇万円およびいずれも右各金員に対する訴状送達の翌日である昭和四六年九月一〇日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する認否)

一  一項の事実は認める。

二  二項の事実中原告ら主張の期間原告秀雄が被告両社の取締役であり、被告定雄が被告篠崎産業の取締役であったことは認めるが、その余の事実は否認する。原告定雄は昭和三七年一二月一〇日被告篠崎香料の取締役を辞任している。

三  三項の事実中原告らの昭和四五年一年間における収入額は認めるが、被告らの資産は否認する。

四  四項中被告らの定款に取締役の退職慰労金に関する定めがないこと、原告らに対する退職慰労金支給の決議がないことは認めるが、その余の主張は争う。

(証拠)≪省略≫

理由

一  被告らがそれぞれ原告ら主張の日に設立されたいわゆる同族会社であり、原告らがいずれもかつてそれぞれ被告両社の取締役であったことは当事者間に争いがない。

二  原告らは、右取締役の退職に伴う退職慰労金の支払を請求するものであるが、原告ら主張の如く、取締役の退職慰労金がその在職中における職務執行の対価として支払われる趣旨を含むものであるときは、商法二六九条の報酬に当るものと解されるから、その支給については、定款の定めもしくは株主総会の決議を要するものというべきところ、本件においては、これについての定款の定めも、株主総会の決議もないことは原告らの自認するところであるから、原告らがその主張のような権利を有しないことは、右主張自体から明らかであるというべきである。

取締役が任期満了により退職するときに退職慰労金を支給するのが一般に慣例となっていることは顕著な事実であるというべきであり、その支給についての実質的な根拠が原告ら主張の如き取締役任用契約の有償性に求められるとしても、そのことは直ちに原告らの主張する具体的な請求権の発生を基礎づける根拠とはなりえないものというべきである。

そして、この理は、被告らがいわゆる同族会社であることによってかわるものではない。

三  よって、原告らの本訴請求は理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九三条、を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 落合威)

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